学校の中心部には生徒たちの純粋な想いをエネルギーに変換する装置が埋まっていた。それが誰かの強い感情に反応し暴走した結果、バリアが生み出されてしまった。学校の中心部である体育館に向かう一同。佐々木が力ずくで止めようとするも装置は止まらない。装置を止めるには本当の気持ちをさらけ出さなければならない。それでは少しの間お付き合いください。
第8章:最後の試練
体育館の床から立ち上る光が、佐藤悠真と山田美咲を包み込んだ瞬間、周囲の空気が一変した。紫色の光は、まるで生き物のように二人の周りを舞い、やがて美咲の口から言葉が溢れ出した。
「私…ずっと悠真くんのことが好きだった。でも、この気持ちを伝えることが怖くて…」
美咲の声は震えていたが、強い決意に満ちていた。
「友達でいられなくなるかもしれない。拒絶されるかもしれない。そんな恐怖が、私の心を縛っていたの」
悠真は、美咲の手をしっかりと握り返した。
「俺も…美咲のことをずっと特別に思っていた。でも、幼なじみだからこそ、その関係を壊したくなくて…」
二人の正直な気持ちが吐露されるにつれ、体育館を包む紫色のバリアが波打ち始めた。その様子に、集まっていた生徒たちから驚きの声が上がる。
「見て!」田中美月が叫んだ。「バリアが反応している!」
井上拓也が一歩前に進み出た。
「みんな、分かっただろう。私たちの本当の気持ち、それがバリアを解く鍵なんだ」
しかし、佐々木翔が苦々しい表情で言い放った。
「簡単に言うなよ。誰だって、心の奥底にある本音なんて吐き出したくないさ」
その言葉に、周囲の生徒たちがざわめいた。確かに、自分の弱さや恐れを晒すことは、簡単ではない。
「でも、それしかない」
悠真が、みんなに向かって言った。
「俺たちは、この状況から脱出するために、自分の殻を破る必要があるんだ」
美咲も、悠真の言葉に続いた。
「私たち全員が、心の中に隠している想いがあるはず。その想いを、ここで吐き出そう」
二人の言葉に、少しずつ生徒たちの表情が変わっていく。
拓也が前に出て、深呼吸をした。
「実は…私は常に完璧でいなければならないというプレッシャーに押しつぶされそうだった。生徒会長として、みんなの模範でなければならない。そう思い込んで、本当の自分を押し殺していたんだ」
彼の告白に、周囲から驚きの声が漏れる。いつも冷静で理知的な拓也が、こんな弱さを抱えていたとは誰も想像していなかった。
次に、美月が勇気を振り絞って話し始めた。
「私は…科学に逃げ込んでいたの。人間関係が怖くて、数式や実験結果の中にしか安らぎを見出せなかった。でも本当は、誰かとつながりたかった」
彼女の言葉に、化学部の仲間たちが驚きの表情を浮かべる。
そして、予想外の人物が前に出た。佐々木翔だった。
「くそっ…俺だって…」
彼は言葉に詰まりながらも、続けた。
「実は、みんなに嫌われるのが怖かったんだ。だから強がって、威圧的な態度を取っていた。本当は…みんなと仲良くなりたかったんだ」
佐々木の告白に、体育館全体が静まり返った。そして、その静寂を破るように、次々と生徒たちが自分の心の内を吐露し始めた。
勉強のプレッシャー、家族との確執、将来への不安…様々な想いが、体育館に溢れ出す。
その度に、バリアが大きく波打ち、揺らめいていく。まるで、生徒たちの想いを吸収しているかのようだった。
しかし、バリアは完全には消えない。
「まだ足りない」拓也が声を上げた。「誰か…まだ言い出せていないことがあるはずだ」
その時、美咲が小さく震えているのに気づいた悠真。
「美咲…?」
美咲は、涙を浮かべながら、震える声で話し始めた。
「実は…このバリアの出現は、私が引き起こしたのかもしれない」
周囲から驚きの声が上がる。
「バレンタイン前夜、私は悠真くんへの告白を決意した。でも、同時に激しい不安に襲われたの。『もし拒絶されたら』『もし今の関係が壊れてしまったら』…そんな恐怖が、私の中で渦巻いていた」
美咲の告白に、悠真は息を呑んだ。
「その時、『誰にも邪魔されずに、悠真くんと二人きりになれたら』って、強く願ってしまったの。そしたら…翌朝、このバリアが現れて…」
美咲の言葉が途切れた瞬間、バリアが激しく揺れ動いた。まるで、最後のピースがはまったかのように。
「美咲…」
悠真は、彼女をそっと抱きしめた。
「怖かったんだね。でも、もう大丈夫だ。俺たちは一緒に乗り越えていく」
その瞬間、眩い光が体育館全体を包み込んだ。
生徒たちが目を開けると、バリアが薄れ始めているのが見えた。紫色の光が、まるで霧が晴れるように、少しずつ消えていく。
「やった…」
「俺たちの想いが、バリアを解いたんだ」
喜びの声が上がる中、悠真と美咲は見つめ合った。二人の目には、これからの未来への希望が輝いていた。
バリアが完全に消えた瞬間、学校の外から、救助隊のサイレンが聞こえてきた。
長かった閉じ込めは、ついに終わりを告げたのだ。
最後に
みんなが本当の気持ちを打ち明けることで、ついにバリアは消滅した。閉じ込められた人は無事に脱出することができたのだった。
学校の創立者が埋めた装置が引き起こしたとんでもない事件に巻き込まれた人のお話になりました。現実的な雰囲気をかもし出しながら、こんな装置が存在するんだからきっと未来のお話なんだと思います。最初にお伝えした通り帰宅部要素が忘れ去られています。サバイバル要素も含むように指示したのですが、食糧難などそっちの意味でのサバイバルになっていました。個人的には生徒同士の争いにもっと期待していたので残念です。
さてこのお話は残すところ、あと1話。その後二人はどうなったのか。エピローグで語られます。
それでは続きはまた後日。ご期待下さい。
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