登場人物紹介
- 篠原 夏樹（しのはら なつき）
大学3年生。小さな出版社でインターンシップをしており、日々の業務に追われながらも将来の夢に向かって一歩一歩進んでいる。真面目で控えめな性格だが、心の中にはいつか恋愛をしてみたいという想いを抱えている。 - 望月 蓮（もちづき れん）
夏樹と同い年の大学生。映像制作の勉強をしており、友人たちとインディーズ映画を制作している。明るくフレンドリーな性格で、表向きは余裕たっぷりだが、実は人知れず努力している部分もある。
本編
篠原夏樹は、大学三年生の夏を迎えようとしていた。小さな出版社でインターンをしながら将来の夢に向かって一歩ずつ進む日々だが、どこか日常に物足りなさを感じていた。恋愛に憧れながらも、控えめな性格が災いして、恋をするチャンスは一度も訪れないままだった。
夏休みに入って数日後、夏樹はいつも通る交差点で、不意に名前を呼ばれた。振り返ると、そこには大学の同級生、望月蓮が立っていた。蓮は映像制作を専攻していて、一度だけ授業で顔を合わせたことがあった。明るくフレンドリーな雰囲気で、どこか他の学生とは違うオーラを持つ彼に、夏樹は少し驚きながらも「こんにちは」と挨拶を返した。
「久しぶりだね。そういえば、篠原さん、どこの学部だったっけ？」蓮が笑顔で尋ねてきた。彼の自然な会話に安心感を覚え、夏樹は少しずつリラックスして話をするようになった。彼の無邪気な話しぶりや、夢中で語る姿が新鮮で、気がつけば二人の会話は止まらなくなっていた。蓮は「今度、俺たちの撮影、見に来てみる？」と誘いをかける。普段ならこんな突発的な誘いには乗らないはずの夏樹だったが、彼の誘いに自然と頷いてしまった。
数日後、夏樹は蓮の撮影に足を運んだ。蓮の友人たちと一緒に観ていると、蓮が作る映像には驚くほど繊細な感情が込められており、その世界に引き込まれるような感覚がした。彼の情熱と真剣な姿に触れるたび、夏樹は心が揺れるのを感じた。そして、蓮もまた、彼女の純粋で真面目な姿勢に惹かれていた。撮影が終わったあとも二人はおしゃべりを続け、夜の街を歩きながら、次第にお互いの夢や未来について話し始めた。
蓮には、大学を卒業したら海外で映画制作に挑戦したいという大きな夢があった。彼はその夢を真剣に語り、夏樹もまた、彼を応援したい気持ちが強くなっていく。だが、夏樹も出版社で働くことを目指しているため、現実的には異なる道を歩むことになるのだと、心の中で理解していた。
「俺、行くよ。どうしても夢を叶えたいんだ」と蓮がある日、静かに告げた。二人は夏の終わりが近づく頃、夜の交差点で立ち止まり、その場でしばらく無言で向き合った。夏樹は「蓮くんの夢が叶うのを、ずっと応援してる」と微笑んで言った。蓮も「俺も…篠原さんのこと、ずっと覚えてると思う」と言い、優しく彼女の手を握った。しかし、その手はすぐに離され、二人は別れの道を歩み出した。
数年後、夏樹はある映画館で蓮が手がけた映画を偶然見つけた。そのポスターには彼の名前が誇らしげに刻まれており、彼が夢を実現したことを知った夏樹は涙が滲むのを感じた。上映中、彼女の目にはあの夏の交差点や懐かしい風景が鮮明に映し出され、心の奥にしまっていた思い出が一気に蘇った。映画が終わると、彼女は小さな声で「おめでとう、蓮くん」と呟き、心の中で彼を祝福した。
その後、夏樹は再び自分の道を歩き始めた。あの夏の思い出は彼女にとって宝物であり、蓮と過ごした日々が今もどこかで彼女を支えていると感じながら、彼女もまた、彼と同じように前に進む決意を新たにした。
エンディング
二人は別々の道を選んだが、あの夏の交差点での出会いと別れの思い出は、いつまでも夏樹の心の中で輝き続ける。それぞれが成長し、夢を追いかけながら歩む未来に向かって。
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