第5章：鏡の中の真実
漆黒の闇が晴れると、子ヤギたちは見知らぬ場所に立っていた。それは、無数の鏡に囲まれた巨大な部屋だった。鏡には彼ら自身の姿が映し出されていたが、その姿は彼らの知る自分とは少し違っていた。
アキラは自分の姿を見て息を呑んだ。鏡の中の彼は、疲れ果て、責任の重さに押しつぶされそうだった。「これが…本当の俺なのか？」
ケイの鏡像は怒りに満ちていたが、同時に深い悲しみも宿していた。「くそっ…俺は一体何と戦ってたんだ？」
シンの鏡に映る姿は、知性の仮面の下に隠された不安と孤独を曝け出していた。「論理では説明できない…この感情は…」
タクミの鏡像は笑顔の下に隠された恐怖と自己嫌悪を映し出していた。「僕の明るさは…全部嘘だったの？」
ミユキの姿は、被害妄想に苛まれながらも、強い創造性を秘めていた。「私の中に…こんな力が？」
ヨシキの鏡像は恐怖に震えていたが、同時に驚くほどの勇気も見せていた。「怖いけど…前に進まなきゃ」
そして、彼らの目の前に最後の鏡が現れた。そこに映っていたのは、笑顔のナナだった。
「みんな、よく来たね」ナナの声が部屋中に響いた。「ここは、私たちの心の中。本当の自分と向き合う場所なんだよ」
兄弟たちは驚愕した。ナナの姿は実体を持ち、彼らの前に現れた。
「実は…私たちは一人なんだ」ナナは静かに語り始めた。「私たちは皆、一つの魂の異なる側面。オオカミは…私たちの恐れや不安の象徴だったの」
真実が明かされるにつれ、部屋の景色が変化していった。鏡は溶け、彼らを包み込んでいく。
「でも、怖がることはないよ」ナナは微笑んだ。「私たちは一つになることで、本当の強さを見つけられる」
光が彼らを包み込み、七つの影が一つに溶け合っていく。そして、新たな姿が現れた。それは、全ての側面を受け入れ、統合された一つの存在だった。
「さあ、新しい物語の始まりだよ」その声は、七人全ての声が重なったものだった。
部屋が輝きに満ち、全てが白く染まっていく。
エピローグ
母ヤギが帰宅したとき、家の中は静けさに包まれていた。「子供たち？」と呼びかけると、一人の若いヤギが姿を現した。
「お帰りなさい、お母さん」その声には、七つの個性が調和して織りなす深みがあった。
母ヤギは不思議そうな顔をした。「あなたは…？」
若いヤギは優しく微笑んだ。「私は…私たちは成長したんです。恐れと向き合い、本当の自分を見つけました」
母ヤギは何かを悟ったように頷いた。「そう…あなたたちは立派になったのね」
若いヤギは窓の外を見やった。そこには、もはやオオカミの影はなかった。代わりに、明るい未来が広がっていた。
「新しい冒険が、私たちを待っているんです」若いヤギは言った。「今度は、恐れずに前に進めます」
母ヤギは誇らしげに我が子を抱きしめた。家の中に、温かな光が満ちていった。
かつて七つだった影は今や一つとなり、より強く、より美しい姿で輝いていた。そして、彼らの物語は新たな章へと歩みを進めていくのだった。
（完）
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